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福井地方裁判所 昭和30年(ワ)166号 判決

原告 清水保

被告 株式会社勝見組

被告補助参加人 戸枝一男 外三名

主文

被告株式会社勝見組が昭和三〇年七月五日開催の第八回定時株主総会における(イ)戸枝一男、勝見友義、斎藤和子を取締役に、馬場豊を監査役に各選任する、(ロ)昭和二九年度財産目録、貸借対照表営業報告書、損益計算書、利益金処分案を各承認するとの決議は存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告株式会社勝見組の負担とする。但し補助参加につき要した費用は補助参加人等の連帯負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、予備的に主文第一項掲記の株主総会の決議取消の判決を求め、

(一)  その主たる請求の請求原因として、

(1)  被告株式会社勝見組(以下被告会社と言う)は土木建築工事の請負業等を目的とする株式会社であつて、原告はその発行済株式一〇、〇〇〇株の内一〇〇株を有する株主である。

(2)  ところで、被告会社は昭和三〇年七月五日開催されたと称する第八回定時株主総会(以下本件株主総会と言う)において、(イ)従前の役員の任期満了による後任として、戸枝一男、勝見友義、斎藤和子を各取締役に、馬場豊を監査役に各選任する。(ロ)昭和二九年度財産目録、貸借対照表、営業報告書、損益計算書、利益金処分案(以下計算関係書類と言う)を各承認する旨を決議(以下本件決議と言う)したと称し、同月一二日右(イ)の決議に基きその旨の登記を了した。

(3)  けれども、実際には本件株主総会は開催されていないから、本件決議の存在する理由がない。

よつて原告は株主として本件決議の不存在確認を求める。

(二)  予備的請求の請求原因として、

(1)  仮に本件株主総会が実際に開催された本件決議が為されたとしても、本件株主総会の招集の手続は法令又は被告会社の定款に違反しているから、本件決議は取消を免れない。すなわち、

(イ)  本件株主総会の招集について商法第二三一条に定める取締役会の決議を経ていない。

(ロ)  本件株主総会は原告を含む株主等にその招集の通知を為さず、商法第二三二条に違反して開催されたものである。

(ハ)  本件株主総会は定時総会であるのにその招集の時期が定款第一六条「定時株主総会は毎年決算期の終了後一ケ月以内に招集する。」同第三〇条「当会社の事業年度は毎年四月一日から九月三〇日まで及び一〇月一日から翌年三月三一日までとする。」

との規定に違反し昭和三〇年七月五日開催されたものである。

従て本件株主総会は違法な手続によつて開催されたものであり、それ故に本件決議も亦違法であるから、原告は株主として本件決議の取消を求める。

と述べ、被告補助参加人の抗弁を否認し、

立証として、甲第一号証ないし第三号証、第四号証の一ないし一一、第五号証ないし第一三号証、第一四号証の一ないし一四、第一五号証ないし第一八号証、第一九号証の一ないし六、第二〇号証の一ないし四、第二一号証及び第二二号証の各一、二を提出し、証人砂川弥左エ門及び原告本人の各尋問を求め、丙第一号証の成立は知らないが同第二号証の成立は認めると述べた。

被告会社の訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張の事実中被告会社がその主張の日時、本件株主総会を開催し、本件決議を為したこと及び役員の変更についてその主張の日時その旨の登記を了したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する、と述べ、

被告会社の補助参加人等訴訟代理人は、抗弁として、仮に本件決議が不存在又は取消さるべきものであるとしても、本件株主総会において選任された取締役及び監査役の全員はその後すでにその各任期が満了して選任したので、昭和三三年三月二日開催の株主総会において新に戸枝一男、勝見友義、野路新作を取締役に、勝見きより馬場豊を監査役に各選任し、同月六日その旨の登記を了したから、すでに退任した役員が選任された、本件株主総会の決議の不存在の確認ないし取消を求める原告の請求は無意味であつてその利益がない。と述べ、立証として、丙第一号証、第二号証を提出し、甲号証はすべてその成立を認めた。

理由

被告会社が昭和三〇年七月五日第八回定時株主総会において、原告主張の(一)の(1) の(イ)、(ロ)の内容の決議があつたとして同月一二日右(イ)の決議に基き原告主張のとおり役員変更の登記を了したことは当事者間に争がない。

そこで果して実際に右株主総会が開催され、且つ実際に右決議が為されたものであるかどうかについて考える。成立に争のない甲第一九号証の四、六、第二〇号証の二、四、第二一号証の二、証人砂川弥左エ門の証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、被告会社はその設立当初においては適法に株主総会を開催していたが、以後事業績がはかばかしくなかつたので、昭和三〇年頃には本件株主総会は勿論実際に株主総会を開催したことは一度もなかつたことが認められ、同第二二号証の二の記載中右認定に反する部分はたやすく措信できず、その他本件株主総会が実際に開催されたことを肯認するに足りる証拠はない。それ故に本件株主総会の決議も亦不存在であることが明白である。

一方、原告は成立に争のない甲第一四号証の七、第一七号証、原告本人尋問の結果により明白なとおり被告会社の一〇〇株の株主である。

そこで原告は果して株主として本件株主総会の決議の不存在確認を求める法律上の利益を有するかどうかについて考えるに、もし本件株主総会の決議の不存在が確定すれば、株主である原告に対する関係において、右決議により選任されたと言う各取締役及び監査役がその在職中に為した行為及び昭和二九年度の計算関係書類の承認が無効となり、延いては、株主としての原告の被告会社に対する権利義務に影響を生ずることが明かであつて、このことは、その後本件決議によつて選任された各役員が任期満了によつて退任し、新に別の者が役員に選任された場合も亦同様と解される。従て原告は株主として本件決議の不存在確認を求める法律上の利益を有するものと解され、それ故に被告会社の補助参加人等の抗弁はその余の判断を待つまでもなくその理由のないことが判る。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九三条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷敏夫 可知鴻平 川村フク子)

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